命に国境はないー高遠菜穂子さんの講演会ー
 30日、イラクでストリートチルドレンの支援活動をしている高遠菜穂子さんの講演会が、東神奈川にある「建設プラザかながわ」で、開かれました。プロジェクターとスクリーンを使って動画や映像を見せていただきながらのプレゼンテーションでした。主催は神奈川県保険医協会で、弁護士・医師・看護婦・労働組合の方が多かったと思います。集まったのは50人くらいでした。主催者がもう少し宣伝を行えば、この講演会を聞きたかった人はもっといたと思います。

 そこには、イラク人質事件に会い、マスコミにたたかれ、心も体も病み、それでも立ち直って、再びイラクのストリートチルドレン救済の活動をしている「強い女性」高遠菜穂子さんがいました。講演の初めに去年の「4月7日の件で皆様にご迷惑をかけました。」と謝罪なさいました。続いて、香田証生さんの事件で自分の姿と重なり心が痛んだことをお話いただけました。



 当初ブッシュ大統領が「テロへの報復」とイラクを名指しにした時に、イラクの人々は「何故イラクが9.11と関係あるのか」意味が全く分からなかったそうです。それでも「自由と民主主義」をもたらすということで期待をしたイラク人も当初は少なからずいたそうです。しかし相次ぐ民間人の殺戮の中で親や子供が殺され、デモを起こすとそれをまた「テロリスト」として皆殺しにしていくという「泥沼」の状態に陥っていきました。

 ファルージャはもともとバクダッドより親日的な人々が多く、平和な街だったそうです。ところがスンニ派イスラム教徒が多いという理由だけで、米軍が一軒ずつ住民の家宅捜索に入り、コーランを破り捨てる、糞をして壁に投げつけたりベットや机の上にも置く、子供の人形の目を繰り抜く、などの行為をしていたそうです。老人がそれを批難すると射殺、それを怒って反抗した農民も射殺、そんな状況が続きました。

 まず、最初に不当な攻撃を受けたのは、病院だそうです。当時、ファルージャの病院は、首都バクダッドと違って援助物資が届かず、ダンボールをシーツにして毛布も足りず服を枕にしていという状況でした。「民間人が何人怪我をし何人亡くなっているのか」についてその確実なデータを持っているのは病院であるため、米軍はその情報を消すために、ファルージャの中央病院を攻撃し、医師、看護婦、スタッフが皆殺しにして、医療機器・機材は取り上げられ、運べないものは破壊されてしていきました。続いて郊外のクリニックを攻撃しに行きました。看護職の方は皆、外出が出来なかったそうです。結果的に看護婦は全て殺害されたそうです。

 相次ぐ民間人の犠牲者が増える中、米軍はファルージャを含むスンニ-トライアングルを包囲しました。病院のなくなったファルージャの人々は、出血多量で輸血を急ぐため、白地に赤十字のサインの旗を示して、検問を通ろうとすると、無残に殺戮されていきました。検問の米軍兵は、まず、通行しようとするイラク人に対し、アラビア語も表示せず、「止まれ」と合図しようと手を広げて垂直に立てました。しかしそのポーズはアラブの世界では「こんにちは」を意味していました。イラク人は「止まれ」の意味が理解できなかったため通行しようとすると、今度は米兵が空に向かって銃を打ち、威嚇射撃をします。ところが「空に向かって銃を撃つ」のはアラブでは「祝福」を意味するのです。そこでさらに通過しようとするイラク人を「テロリスト」として殺害あるいは収容していったのです。

 ファルージャでは700人以上の民間人がなくなり、ファルージャで最も有名なレストランも爆破され、歴史や伝統のあるモスクは全て破壊され、サッカー場は墓地になりました。家屋の8割は全半壊になり、蜂の巣のように銃弾が撃たれていました。人口30万人のうち10~15万人が郊外に疎開しました。一台のトラックの荷台や屋根に何十人もの市民を載せていきました。電力は24時間中10時間供給されていた地域でしたが、連日の爆破で電気も供給できなくなりました。

 米軍はこのスンニートライアングルで、「サハラのサソリ作戦」が展開しました。「クラスター爆弾」という200mlのコップ一杯位の大きさに数百個の小さな爆弾を詰め込んだものをバラまき、その小さな爆弾はかなり広範囲に散らばり、そこから無数の細かい鉄の破片が人体に突き刺さって体内に入り込んでいくそうです。ある妊婦さんの胎内で生きている赤ん坊の中にも7箇所もの鉄片が見つかったそうです。またベトナム戦争で用いられたマスタードガスのような化学兵器も用いられたそうです。また広島・長崎のような規模ではないが、あのような天高く「キノコ雲」が登っていく光景もしばしばあったそうです。

 米軍の兵士の中でも、心を病む兵士が出るようになりました。1日に検問所でイラク人を48人も殺し、その罪の意識にPTSD(精神的外傷)になり人前に出ることが出来なくなった兵士もいます。「何故私が威嚇射撃をしたとき止まってくれなかったのか。あそこで止まってくれれば殺さずに済んだのに。」と高遠さんに手紙を書いた兵士は、イラクの少女に「何故私の兄を殺したの!私達は何もしていないのに!何故兄を殺したの!」と訴えられた時の目が忘れられず、毎日フラッシュバックに悩まされているそうです。

 民間人を殺害した象徴的事件が2004年5月9日、砂漠の中で結婚式を挙げているイラク人に対し空爆をしたことです。40数人の女性・子供を含み殺害されました。結婚式のビデオも残っていたため、イラク住民は「これは誤爆である」ということを訴えてきました。しかし米軍側は「砂漠の中で結婚式は有り得ない」と誤爆を認めませんでした。アラブ世界には「砂漠の民」として、ラクダや羊を放牧して生活している人々が沢山いるのです。イラクでは死体は毛布で包んで埋葬するのが一般的で、3人の姉妹が母親と一緒に毛布で包まっている映像も紹介されました。

 気の病んだ米兵の告白によると、米軍ではスンニ派はすべてテロリストであり殺害してよいと教育されているそうで、収容所には「戦犯」とかかれ3桁の番号のついた服を着せられ、ろくに食事も与えられず、拷問や処刑は日常茶飯事。イラク住民が収容所での遺体の引渡しを要請したら、「一人だけ写真を撮ることを許可する」と米兵に言われ、収容所の敷地一杯に転がっているイラク人の遺体を撮らされ、その写真を住民にばら撒くように言われたそうです。

 引き渡された遺体はトラックで運ばれ、中には沢山の黒い袋があり、袋の中から「うじ虫」が沸いた遺体が無数に出てきました。イラクは世界で最も高温な地域で昼間は50度にもなるため遺体が腐敗しやすいのです。皮膚や爪のはがされた人、犬に肉をしゃぶられ骨しか残っていない人、後頭部に銃弾の跡がある人、様々な殺され方をしていました。腐乱死体であるため、身元が判明できず、胸ポケットにIDなどが入っていた数名の身元しか分からなかったそうで、その中にはファルージャのサッカーチームで英雄的存在のサッカー選手もいました。立ち会ったイラク人は号泣しながら、「アラーの他に神はなし!」と連呼しました。

  「これが正義のための戦争なのか?」と訴え取材を続ける外国人ジャーナリストが沢山いたそうですが、このような衝撃的な事件については、アメリカ・イギリスでは全て放送禁止、日本では「報道ステーション」が十分な説明もないまま5分間衝撃的な映像を流したのみ、そして、中東で最も中立的なテレビ局と言われているアルジャジーラでさえも、米英の圧力により2回も放映禁止、首都バクダッドでも殆ど放映出来なかったそうです。
 
 米軍はどのようにしてイラク人が民間人かテロリストかの判断をしていたのか、その根拠は、①銃を持っているか ②ベストを着用しているか に依っていたそうです。このような情勢では銃を持たずに外出できない状況であったでしょう。また、次第に戦闘可能な年齢である男性は、皆疑われるようになった為、外出できなくなり、女性・子供は自動車の免許を持っていないため、ますます病人が出ても手当てを受けさせに運ぶことが出来なくなりました。

 ファルージャでは、出血多量の患者が殆どだったそうですが、次第に「狂犬病」の患者が増えていきました。アメリカCIAのシェパード犬が、イラク人を噛み付くようになり、この頃から病院などで狂犬病にかかった人たちが次々と運ばれてくるようになっていました。狂犬病はすでに日本ではなくなった病気のため日本のNGOでワクチンが提供できず、高遠さんは、インターネットを駆使して外国のNGOに救助要請をしました。

 選挙の時は、ファルージャでは選挙の「せ」の字もイラク人は考える余裕がなかったそうです。米軍だけでなく、たくさんの外国人義勇兵が来て、民間人を殺戮している最中でした。怪我人は道中に倒れ、その上をを戦車が相次いで走って、横たわって動けないイラク人をひいて行く、こんな状況では選挙どころではありません。

 「日本は何故この戦争を支持したのか?」高遠さんは良く聞かれるそうです。この恥ずかしい戦争を支持する小泉内閣、憲法9条改正論を唱える人々、言論・思想の自由を奪われた商業主義に溺れるマスメディアと、それに扇動される日本人、さらにアフガニスタンやイラクのみならず、「悪の枢軸国」としてイランを掲げているブッシュ政権とそれを支える人々全てに考え直してほしいです。アメリカ人にも、イラク人にも、世界中の誰にも「人を殺す権利」などないということを。

 そして、私はこの講演会をしてくれた高遠さんが、どうぞ今後の活動の中で命を落とすことのないように、とお祈り申し上げております。

(参考1)イラク関連のホームページ
イラク・ホープ・ネット・・高遠菜穂子さんとNGO等のメンバー達によるネットワーク
イラク・ホープ・ダイアリー・・・高遠菜穂子さんのエキサイトブログ
ヨルダン・イラク報告・・・JVC(日本国際ボランティアセンター)の原文次郎さんのブログ
くれよん平和主義・・・JVCの佐藤真紀さんのブログ
Raed in the Japanese Language・・・Raedさんのblogをnofrillsさんが日本語化
Baghdad Burning・・・イラク人女性リバーベンドさんのblogの日本語訳
アルジャジーラ(英語版) ・アルジャジーラ(アラビア語版)
(*アラビア語版の方が情報規制が少ないので読める方がいらっしゃればどうぞ。但し英語版でも十分現地の情報は伝わりますのでチャレンジしてみて下さいネ。)

(参考2)イラク関連の図書
・「戦争と平和」 高遠菜穂子 講談社
・「未来って何ですか」 郡山総一郎 新日本出版社
・「イラク人質事件と自己責任論」 佐藤真紀 大月書店
 (*不条理な自己責任論に対する批判を紹介した本です。)
・「イラク後のアメリカの戦略と世界平和」安西郁郎・他 かもがわ出版
・「戦争をしなくてすむ世界を作る30の方法」 平和を作る17人・共著 
 (*Mr.childrenの桜井和寿さんも出版に協力しています。)

by hide3190ymo | 2005-04-01 20:30 | 平和と国際連帯
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