蟻の兵隊 @ ジャック&ベティ
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黄金町の映画館ジャック&ベティに行きました。レトロの雰囲気の映画館で、一度は閉館になったのだけれど、小泉今日子主演の空中庭園の上演を機に開館し、社会派の映画を中心に上映されています。今日は「蟻の兵隊」の監督である池谷薫さんと主人公の奥村和一さんの舞台挨拶がありました。私は地元なので、開演ギリギリに行ったのですが、開いている席が一番前しかなくて、立ち見のお客さんもたくさんいました。ご年配の方が多かったけれど、若い学生さんも多くて、舞台挨拶のときには一生懸命メモを取ったりしていました。

「蟻と兵隊」は、第2次世界大戦後も、中国山東省に残留させられた日本軍兵であった奥村和一さんのドキュメンタリー映画でした。1945年8月、中国山東省にいた日本軍部隊は、この地方にいた中国国民党軍に降伏しました。中国国民党軍将軍が共産党軍との戦いに日本軍を必要とし、日本軍の司令官と交渉し降伏してきた2600人を残留させました。



奥村和一さんの所属していた部隊は、アメリカには負けたけれど中国にはまだ負けていない、日本軍は山東省から復活させるのだと将校から教育され、初等教育として、中国共産党の疑いがあると強制連行された農民や子供を銃剣で殺す練習、殺人マシーンとなる練習をさせられていました。「天皇陛下万歳!」と言って死んでいった同僚の兵士もいました。

奥村さんは、1948年南庄村の戦闘で左耳の聴力と、左半身に砲弾の破片がびっしり入り、今でもそれが残っているそうです。以後、人民解放軍の捕虜となり、6年2ヶ月に渡って炭坑や農村で強制労働させられていました。

奥村和一さんは、1954年ようやく帰国を許されのですが、すでに軍籍から抹消され、「勝手に自分の意思で中国国民党に加担したのだ。」という理由で、恩給も補償も出ませんでした。それどころか中国帰りということだけで「アカのスパイ」とされて、警備隊からマークされ続けたそうです。卑劣な司令官の保身のために、多くの日本軍兵が中国に残留させられ、中華人民共和国が設立後、初めて帰国が出来て、恩給も補償も出なかったグループが訴訟を起こし、現在80歳を越えて生き残ったメンバーだけで、裁判を続けています。

奥村さんは、当時の日本軍が自分の意思でなく、中国国民党に人身売買されたという証拠を探すため、中国山東省に出かける旅をしてきました。そこで知った驚くべき事実と、昔は敵同士だった中国の人との触れ合いを、ドキュメンタリーとして編集したのが、この映画「蟻と兵隊」です。16歳のときに日本軍兵に引きずられ、強姦され、身柄引渡しと引き換えに家族に金銭を要求された被害を持った女性が、今でも戦争のことを妻に語れない奥村さんに、「奥さんに話してあげなさい。私達は、戦争が人間を狂わしていたってことを、伝えなければいけないでしょ。いまのあなたは悪い人には見えないわ。」と言ったシーンが印象的でした。

上演終了後のトークのあとで、「私も残留兵だったんです。」という方が何人か出てきて、「神奈川にも、仲間が一杯います。どんな力でも貸します。これからも応援しています。」という言葉が出てきて、拍手喝采となりました。「事実は小説より奇なり」とはこういうことなんだと思いました。
by hide3190ymo | 2006-11-25 19:31 | 平和と国際連帯
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